大判例

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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)687号 判決 1969年6月18日

控訴人

石田幸太郎

代理人

東野俊夫

被控訴人

田原喜三郎

代理人

藤原光一

久保義雄

主文

原判決中控訴人に関する部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用中控訴人と被控訴人との間に生じた部分は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一<証拠>によれば、大阪都市計画復興土地区画整理事業の施行者である大阪市長が、昭和二五年一月三〇日、同事業の施行上、控訴人所有の大阪市大淀区中津本通三丁目一〇二番地の一宅地一三六坪につき、大淀地区中津豊崎工区ブロック一〇二の符号一二面積六三坪五合(原判決添付別紙第一図面記載の土地)と同工区ブロック二八の一の符号五面積三四坪五合との二カ所合計九八坪の土地を仮換地に指定する処分をしたことが認められる。

二<証拠>を綜合すれば、次の事実を認定することができる。

(一)  その頃前記仮換地の一部である大淀地区中津豊崎工区ブロック一〇二の符号一二面積六三坪五合は、原判決添付の別紙第一図面に示すの部分一三坪三合九勺の上に控訴人所有の凍豆腐工場一棟が存在したが、そのほかのの部分は空地であつたので、控訴人は津田正則に対し、昭和二五年一二月一九日頃右の部分の土地約三〇坪を、昭和二六年六月の部分の土地約二〇坪をそれぞれ売渡した。

(二)  津田正則は右の土地合計約五〇坪を買受けたものであるから、その従前の土地の仮換地減歩率を考慮し、右仮換地中約五〇坪に照応する従前の土地の一部について分筆の上所有権移転登記を受けるべきであつたのに、昭和二六年七月二一日従前の土地一〇二番地の一宅地一三六坪から、仮換地の土地の面積を五〇坪三勺として、右五〇坪三勺だけを一〇二番地の四として分筆の上(したがつて、一〇二番地の一は八五坪九合七勺となつた。)、昭和二七年六月二一日右一〇二番地の四について同月一一日売買を原因とする所有権移転登記を津田隣良名義で受けたにすぎなかつた。

(三)  津田正則は前記の土地を買受けてから、同所にバラックの店舗付住宅(未登記)を建て、空地を薪炭置場として使用していた。

(四)  被控訴人は昭和二九年七月三一日津田正則から右の土地を地上建物(取毀の目的で)とともに買受け、同年八月四日前記一〇二番地の四の土地につき津田隣良名義から所有権移転登記を受けた。

(五)  一方、朝日土地建物株式会社は前記仮換地、中津豊崎工区ブロック二八の一符号五面積三四坪五合を控訴人からの買受人から買受け、昭和二六年一一月一三日に先に一〇二番地の四を分筆した結果八五坪九合七勺となつていた従前の土地の一部一〇二番地の一から一〇二番地の五として三四坪五合を分筆した上(その結果一〇二番地の一は五一坪四合七勺となつた。)、その所有権移転登記を受けた。

(六)  旧一〇二番地の一宅地一三六坪につき、一〇二番地の四宅地五〇坪三勺、一〇二番地の五宅地三四坪五合が分筆され、被控訴人及び朝日土地建物株式会社にそれぞれの所有権移転登記がなされたので、右登記上の変動の限度内で従前の土地の一部の所有権の変動に伴い、大阪市長は、昭和三八年一二月五日、その効力発生の日を翌六日と定めて、(1)控訴人所有の一〇二番地の一宅地五一坪四合七勺の仮換地に前記中津豊崎工区ブロック一〇二の符号一二面積六三坪五合の内原判決添付の別紙第二図面表示の東側二六坪七合(実測二七坪三勺)を符号一二の二として、同工区ブロック二八の一の符号五面積三四坪五合の内西側九坪七合七勺を符号五の一として、(2)被控訴人所有の一〇二番地の四宅地五〇坪三勺の仮換地に右ブロック一〇二の符号一二の内右第二図面表示の西側三五坪八合四勺を符号一二の一として、(3)朝日土地建物株式会社所有の一〇二番地の五宅地三四坪五合の仮換地に右ブロック二八の一の符号五の内東側二四坪七合三勺を符号五の二としてそれぞれ指定する旨の仮換地指定変更処分をした。

(七)  朝日土地建物株式会社は前記ブロック二八の一の符号五面積三四坪五合に照応する従前の土地中の面積の所有権移転登記を受けていなかつたので、前記ブロック二八の一の符号五の一の面積九坪七合七勺が控訴人に対し仮換地として指定変更されたのを是正するため、昭和三八年一二月一九日、右換地九坪七合七勺に照応する従前の土地の一部として、控訴人から従前の土地一〇二番地の一宅地五一坪四合七勺から一二坪五合五勺を一〇二番地の六として分筆の上(その結果一〇二番地の一は三八坪九合二勺となつた)、右一〇二番地の六の所有権移転登記を受けた。その結果、朝日土地株式会社は昭和三九年三月三〇日換地処分公告の結果前記ブロック二八の一符号五の一、二合計三四坪五合の所有権者となつた。

(八)  ところが、被控訴人は、朝日土地建物株式会社のしたような是正方法をとらなかつたため、大阪市長は昭和三九年三月三〇日前記二(六)の仮換地変更指定処分どおり、控訴人所有の一〇二番地の一宅地三八坪九合二勺の換地に前記ブロック一〇二の符号一二の二面積二六坪七合(実測面積二七坪三勺)を、被控訴人所有の一〇二番地の四宅地五〇坪三勺の換地に右ブロック一〇二の符号一二の一面積三五坪八合四勺をそれぞれ指定する旨の公告をした。そして、同月三一日右一〇二番地の一は七一番地の一一に地番が変更された。<証拠判断省略>

三ところで、仮換地の特定の一部分を買受けた者は、これに対応する従前の土地の一部を買受けたものと解されるが、従前の土地について、その買受部分を分割しなかつた場合はもちろん、分割の上分筆したときであつても、後記のようにその部分についての換地処分がなされずに、従前の土地全体についての換地処分がなされたに過ぎない場合は、その換地は売買当事者の共有となり、買受人は仮換地全体の面積に対する買受部分の面積の比率に応じた共有持分を取得するに過ぎないのであつて、現地換地の場合などにみられるように、予め換地の特定部分を買受人の単独所有とする合意があつたと認められる場合か、あるいは買受人の取得すべき部分を定める共有分割の合意があつたと認められる場合でなければ、換地の特定部分について、買受人が当然単独の所有権を取得するものではないといわなければならない。もつとも、仮換地の従前の土地について、買受地に対応する部分を売買当事者の合意によつて分割した上その分筆登記をなし、これに基づき施行者より、仮換地の変更指定処分を経るか、あるいは直接に、その分筆部分について換地処分を受けたときは、その換地が買主の単独所有となることはいうまでもない。そして右換地処分の基礎となつた分筆地が分筆手続の誤りから過少となり、したがつて換地の地積に不足を生じたときは、たとえ、これに対する是正の措置がとられることなく、整理工事が完了したときでも、右分筆もれの不足分は特段の事情がない限り、依然として残余の従前の土地に残存するのであるから、この残余の土地につき換地処分があれば、右残存部分も当然換地に移行して存在するものといわなければならない。しかし、その残存地が換地のどの部分であるかを確定することができないのであるから、共有分割の方法によつて、その部分を定める合意がない以上、換地の特定部分につき、単独所有権を取得することができないのは、前同様である。

四被控訴人は、その買受けた前記仮換地の一部であるの合計地に対応する従前の土地の一部である前記一〇二番地の四は、その分筆のさい、換地に伴う減歩率を考慮しなかつたため過少面積となり、したがつてその部分についてなされた換地処分により被控訴人の取得した換地は、その面積において一三坪三合一勺の不足を生じ、右不足分は控訴人の取得した換地の中の原判決添付別紙第三図面表示の①の土地に該当すると主張するのであるが、かりに被控訴人の取得した前記従前の土地(一〇二番地の四)が分筆手続のさい減歩率を考慮しなかつたため、その面積において被控訴人主張の数量の不足を生じ、この不足分が控訴人の取得した前記換地に移行しているとしても、その部分を特定するについての合意があつたことの主張、立証がなく、むしろ前記認定の事実ならびに弁論の全趣旨に徴し、そのような合意がなかつたとみられる本件では、被控訴人がその主張の特定部分につき単独所有権を取得したものとすることができないのは、前説示のとおりである。

五そうであれば、被控訴人主張の前記図面①の土地が、前認定の各売買契約に基づき、控訴人から津田正則を経て被控訴人に移転されたものとはいえないのであるから、これを前提とする被控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものであり、これを認容した原判決は失当であつて、本件控訴は理由がある。

そこで、民訴法三八六条、九六条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(金田宇佐夫 輪湖公寛 中川臣朗)

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